大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和24年(つ)1915号 判決 1949年12月27日

被告人

福田義雄

主文

原判決中被告人に関する部分を破棄する。

本件を福岡地方裁判所に移送する。

理由

二名の受命裁判官が共同して証人を尋問をし、若くは檢証をした場合には、その二名の裁判官は刑事訴訟規則第四十二條第一項にいわゆる取調又は処分をした者に該当するから同規定に従つて、その取調又は処分について作成した証人尋問調書又は檢証調書に各自裁判所書記官と共に署名押印しなければならない。今所論の証人尋問調書及び檢証調書を調査すると、それぞれその冐頭に受命判事日野太作同古川初男は裁判所書記黑山一立会の上証人岩本淸を尋問し、若くは檢証をした旨を記載し、なほ右証人の尋問及び供述、若くは檢証の結果を録取しているので右二名の裁判官は共同して右の証人尋問及び檢証をしたことが明白である。

従つて右の各調書には前記二名の受命裁判官において各自署名押印しなければならないことはいふを俟たない。然るに同調書には受命裁判官中日野太作のみ受命判事として裁判所書記黑山一と共に署名押印しているのは前記法規に違反したものといわなければならない。ところが、かような法規違反の場合その調書が有效であるか否かについては、何等法規がないのでその效力の有無について考えて見ると、調人尋問調書若くは檢証調書にその取調又は処分をした者が裁判所書記官と共に署名押印をすることを必要とするのは、ひつきよう、その調書の正確を保持するためであるから、もし、その取調若くは処分をした者の署名押印を欠く場合はその調書の正確性を失うことになるので、その調書は無效のものといわなければならない。

そして、この理は、共同して取調若くは処分をした者の一人が裁判所書記官と共に、その調書に署名押印したからといつて何等消長を及ぼすものではない。けだし、共同して取調若くは処分をした者の中署名押印をしない者の関係においては、その調書はその正確性を保持してゐるものと言いえないからである。さすれば所論岩本淸に対する証人尋問調書及び檢証調書は、いずれも受命裁判官古川初男の署名押印を欠いでいるので無效の調書であるといわなければならない。ところで原判決は右の調書中、岩本淸に対する証人尋問調書の記載を他の証拠と不可分的に綜合して被告人関係の原判示事実全部を認定しているのみならず、右の証人尋問調書の記載を外にしては原判示事実はこれを認定するに足らぬので、結局原判決は無效の調書の記載を断罪の証拠に供した違法と理由不備の違法があり、その違法は原判決に影響を及ぼすことが明かであるから、原判決中被告人に関する部分は他の論旨に対する判断をするまでもなくこの点に破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて刑事訴訟法第三百九十七條、第四百條本文に則り主文のとおり判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例